著者は宗教哲学を専攻し、西田哲学の研究者でもある。近著に『西田幾多郎の哲学 物の真実に行く道』(岩波新書、2022年)がある。本書は文字通り「西洋の哲学」と「東洋の思想」とを対比させて考察したものであり、西洋と東洋における哲学と思想の違いが良く理解できる。著者が冒頭で断っているように、本書の目的は東西の文化の優劣や是非を論じることではなく、東西の物の見方や考え方の相違を明確にし、それらの今後の発展の方向や統合の可能性を論じることにある。
著者は、東西における哲学・思想の違いはその起源にあるとする。「哲学」が物事の真理を追究することが目的であることは東西とも共通であるが、西洋では自然や宇宙の本質の解明を目指したのに対して、東洋では人間の本質の解明に集中した。こうして西洋では哲学が理論的な思考を徹底し、自然科学に繋がったのである。一方東洋では、哲学が「教」(つまり宗教や道徳)と深く繋がり、思想と呼ぶのが適切なものへと繋がったのである。
著者が説く「西洋」と「東洋」との違いの例を章のタイトルから引くと次の通りである。「驚異の感情」対「悲哀の意識」、「自然の形而上学」対「心の形而上学」、「分別的思惟」対「平等的思惟」、「有の思想」対「無の思想」、「肯定の論理」対「否定の論理」、「外なる自然」対「内なる自然」。もちろんこれはあくまで図式的に示したもので、そのような側面が西洋や東洋にはあると理解すべきであろう。
本書のテーマに関連して、哲学と思想という二者対比でなく、哲学-思想-宗教という三者比較が分かり易いと評者は考えている。そのための前提として、哲学-思想-宗教の共通性と違いとを、ロゴス(論理)-パトス(感情)の軸で考える。哲学は大部分がロゴスで成り立ち、思想はロゴスとパトスが混在、宗教は大部分がパトスと考えるのである。なお、ここで言う宗教には、仏教やキリスト教だけでなくマルクス主義のような「政治宗教」も含まれる。西洋はロゴス主体に優れ、東洋(特に日本)はパトス主体が得意と考える。
こうして見ると、日本には独創的な思想家を生み出す土壌は確かにあるが、それが「哲学」に向かうことは稀であり、ロゴスとパトスが混在した「思想」を生み出すことに優れていると言えるのではないか。また、そのような土壌は今日まで続いているのではないか。このような事態は日本独特のものと考えれば、「西洋哲学」に比べて卑下する必要はなく、日本に合った思想・哲学を生み出し、育てていけば良い。なお、著者は本書で西田幾多郎の独創性を高く評価し随所に引用している。西田以後の日本の「哲学者」たちは、西洋哲学の「勉強」に明け暮れ、西田に続いて西洋と東洋とを統合するような哲学を生み出す、独創的な哲学者は残念ながら皆無である。

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西洋の哲学・東洋の思想 単行本 – 2008/7/18
小坂 国継
(著)
比較思想から見る東西思想の軌跡と思惟様式 心と自然、有と無、肯定の論理と否定の論理などのテーマで東西思想の根幹をなす本質とその思惟様式を解析。人類の知的財産の比較思想的観点からの体系的な総決算
- 本の長さ274ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2008/7/18
- 寸法13.8 x 2.3 x 19.5 cm
- ISBN-10406214851X
- ISBN-13978-4062148511
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2012年3月2日に日本でレビュー済み
タイトルの通り、東西の様々な思想の要約が書いてあります。
たしかに、日本の大乗仏教だけで仏教を語っているようなところは結構気になりました。
しかし、いろんな哲学者たちの意見が短くまとめられているので、哲学に興味のある人にはカタログとしては面白い著作であると言えます。
たしかに、日本の大乗仏教だけで仏教を語っているようなところは結構気になりました。
しかし、いろんな哲学者たちの意見が短くまとめられているので、哲学に興味のある人にはカタログとしては面白い著作であると言えます。
2010年8月21日に日本でレビュー済み
たぶんすでに発表した論文をまとめたためだと思いますが、
各章の間で内容の重なりが大きく、
同じことが何度も繰り返しでてきます。
また、東洋と西洋を単純に対立させて論じていますが、
わかりやすい構図ですが、真相はそんな単純ではないような気がします。
各章の間で内容の重なりが大きく、
同じことが何度も繰り返しでてきます。
また、東洋と西洋を単純に対立させて論じていますが、
わかりやすい構図ですが、真相はそんな単純ではないような気がします。
2010年4月17日に日本でレビュー済み
読み始めてみると、???。プラトンとアリストテレスの区別もついていないし、原始仏教と菩薩信仰もごっちゃになってます。いろいろな哲学者の名前は出てきますが、それぞれについて、全く知識もないし、理解もしていないことを露呈しています。
このような方が、大学で哲学教育に関わっていらっしゃると思うと、空恐ろしい気がします。
このような方が、大学で哲学教育に関わっていらっしゃると思うと、空恐ろしい気がします。